子どもの安全と企業のCSR/CSV
Injury Alert(障害速報)
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会では、2008年に日本小児科学会雑誌と学会ホームページに「Injury Alert(傷害速報)」を追加しました。
https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/
当院でも2例ほどInjury Alertに報告したことがあります。
私はInjury Alertを作った山中 龍宏医師に、設立の経緯をお聞きしたことがあります。以前も引用しましたが、再び引用させてください。
傷害を予防するには、いろいろなバリアがある。一般的には、傷害を健康問題と考えていないこと、傷害は起こらないという思い込み(まさかうちの子に限って、私が見ているから大丈夫など)、また傷害は予測つかないという先入観がある。そして、子どもの事故は保護者の不注意と決めつける場合が多く、企業は「誤使用」と責任逃れに終始し、行政は「うちの担当ではない」と弁明し、マスメディアは興味本位に取り上げる。そして、すぐにできる傷害予防を気安く求める社会の風潮がある。保護者は、事故は子どもを見ていなかった自分の責任と思い、自責の念にかられ、企業や行政に訴えることはない。(小児内科編集委員会・「小児外科」編集委員会 2014) 。
安全のために企業が改善した事例
要するに、小児科医らの専門家が気づき、啓蒙し、時として政策提言しないと、「防ぎ得た事故」は繰り返されることがあります。Injury Alert(傷害速報)で報告された4歳児の「フード付きパーカーによる縊頸」がきっかけとなり、2015年12月からは、7歳未満の子ども服はひものついたデザインや製造、供給がJISにより禁止されています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamanakatatsuhiro/20180530-00085834
また、企業が率先して販売を取りやめた事例もあります。子どもではありませんが、オリオンビールはアルコール度数の髙いストロング系飲料の販売を取りやめています。
オリオンビールが「ストロング系」をやめた理由
9%チューハイ発売から7カ月で下した決断
https://toyokeizai.net/articles/-/393679
企業のCSR/CSVとは
CSRとは、Corporate Social Responsibilityの略語で「企業の社会的責任」といいます。この翻訳はわかりやすいですね。
一方、CSVは、Creating Shared Value(共通価値の創造)と言います。少しわかりにくいですね。これは、経済的な価値を創出しながら、社会ニーズもそこに取り含み、社会的価値も創造する意味です。
https://www.amita-oshiete.jp/qa/entry/001467.php
従来、経済効果と社会貢献はトレード・オフの関係にあると考えられてきましたが、そうではなく、両者の両立するというのがCSVです。
事例:ネスレ
https://www.nestle.co.jp/csv
https://www.nestle.co.jp/csv/whatiscsv
ポーター仮説と子どもの安全
ところでCSVを提唱したのは、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーターらです。
マイケル・ポーターは、「適正に設計された環境規制は,そのためのコストの一部あるいは全額以上を相殺するイノベーションを引き起こす」可能性があることを指摘しています。これをポーター仮説と言います。
Porter Michael E.・Linde Claas Van Der(1995)「Toward a New Conception of the Environment-Competitiveness Relationship」、『Journal of Economic Perspectives』9(4)、pp.97-118
最近の事例では環境に配備した製品(車など)が挙げられるでしょう。
子どもが企業などが作った製品などで問題を起こしたとき、これを「親の不注意」で片付けることなく、企業が努力すれば、より安全で魅力ある製品を作れ、それが企業にとって強みになる可能性があります。
逆に言えば、自社製品で事故が起きても『「誤使用」と責任逃れに終始』するだけのみならず注意喚起した人たちを厄介者扱いする企業があるとすれば、その企業の未来は暗いものでしょう。
もちろんそんな企業があればの話ですが。