新型コロナウイルス:発熱でフルイに分ける理由
現在日本は試練の時期です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で、世田谷区立小中学校は、3月2日(月曜日)から2週間休校です。低学年でも一律休校なのです。
学校は就学という機能以外にも、働く保護者にとっては保育的な面があり(特に低学年)、またセーフティーネットの役割も最近は担っています。保育やセーフティーネットとしての機能が急に2週間も断ち切られてしまわないように、配慮を求めます。
ここでスクリーニング検査の話をさせてください。ここではスクリーニング検査とは「篩分け」(篩とはふるいです。以下ふるい)の意味で、比較的発症者の少ない(検査前確率の低い)大勢の中から病気の人を大まかに選び出すことを意味します。スクリーニング検査ではどういった検査が望ましいでしょうか?
ここで以前のブログ「インフル陽性です!」は正しいか?から参照させてください。
病気あり | 病気なし | 計 | |
---|---|---|---|
検査陽性 | a | b | a+b |
検査陰性 | c | d | c+d |
計 | a+c | b+d | a+b+c+d |
ここで、bが偽陽性でcが偽陰性です。
感度=a/a+c (病気な人 a+c を病気であると言える割合)
特異度=d/b+d (病気ではない人 b+d を病気でないといえる割合)
先程の質問は「スクリーニング検査は感度・特異度のどちらが高いほうが望ましいでしょう」と言い換えることができます。
「スクリーニング検査は病気でない人をふるいで分ける検査だから、(病気ではない人を病気でないといえる割合である)特異度が高い検査が望ましい」なんて言う人もいるかも知れませんが、これはあわてんぼうです。もう少し丁寧に説明していきましょう。
先程の表(2x2表)をもう少し解説します。
病気あり | 病気なし | 計 | |
---|---|---|---|
検査陽性 | 真陽性 | 偽陽性 | a+b |
検査陰性 | 偽陰性 | 真陰性 | c+d |
計 | a+c | b+d | a+b+c+d |
ここで偽陽性は「病気ではないのに、病気である」と判定する誤りで、αエラー(第一種の過誤)といいます。
逆に偽陰性は「病気なのに、病気ではない」と判定する誤り、βエラー(第二種の過誤)といいます。
もっと簡単に
αエラーは「あわてんぼうの過ち」
βエラーは「ぼんやりさんの過ち」
でもいいかもしれません。
さて、スクリーニング検査では、βエラーである「病気なのに、病気ではない」と判定してしまう(ぼんやり)数を極力減らすべきであり、つまりは偽陰性を極力減らす必要があります。そして、偽陰性 c が減れば、感度=a/a+cが上昇していきます(c以外の数字が変わらなければ、特異度は変わりません)。つまり、スクリーニング検査は感度が高い検査が望ましいということになります。
今回のCOVID-19で有名なスクリーニング検査といえば「発熱」です。COVID-19で発熱がほぼ必須ならば、感度が高いはずです。発熱というふるいでかければ、ふるいから落とされた人(発熱なし)のなかにCOVID-19の人はほぼいないことになります。
しかし、ふるいに残った人全員がCOVID-19かというとそうではなく、普通の風邪がインフルエンザなども混ざっていることでしょう。つまり、特異度は下がります。
現在COVID-19受診目安として、「発熱37.5度以上が4日続いた場合(例外あり)」となっています。発熱の条件を37度以上とすれば、より感染者を拾い上げるかもしれません(感度は上がる)が、疑陽性者が増えるので特異度は下がります。逆に条件を38度以上とすれば、特異度は上がりますが感度は下がります。一般的に感度と特異度はトレードオフ関係にあります。しかし、技術やテクニックなどの向上で、感度や特異度の両方を上げていくこともできます。
確定診断の検査は、感度・特異度どちらがいいかというと、今度は逆に特異度が高いほうが望ましいです(病気でないのにあわてんぼうで病気と診断してしまい、無駄な治療などをするのを避けるためです)。
。もちろん発熱だけではなく、問診や咳の具合、それに他の感染の可能性などを調べて可能性の低い人を除外していくことで、検査前確率を上げていくことが現状では大切です。
そして、現状では新型コロナウイルスのPCRは感度・特異度ともにそれほど高くはないということをご理解ください(今後もっと感度・特異度が高いPCT手技や他の検査方法が出るかもしれません)。
おまけ
というサイトがあったので、少し数字を入れてみました。
PCRの感度・特異度をそれぞれ50%と仮定した上で、有病率を変えてみました。
感度50%,特異度50% | ||
---|---|---|
有病率 | 陽性適中率 | 陰性適中率 |
0.1% | 0.1% | 99.9% |
1% | 1% | 99% |
10% | 10% | 90% |
50% | 50% | 50% |
90% | 90% | 10% |
これを見れば、感度・特異度がそれぞれ50%の場合、有病率が少なければ、陽性でもほとんど当てにならないですし、有病率が高ければ陰性もあまり信用になりません。
ご自分でも、感度・特異度・有病率を変えて、陽性適中率や陰性適中率を調べてみてください。
感度・特異度以外でも、現状ではコロナ検査(PCR)は様々な問題があります。
コロナ検査を「手軽に」出来るようにしてはいけない理由【詳記】
そして、本当にご自分(もしくは家族)にPCRの検査が必要なのか、考えてみてください。