抗生剤の使い方(6)ーワクチンの威力

抗生剤を使う根拠として、細菌性髄膜炎が怖いから、というものがありました。いわゆる「防衛医療」です(軍事医療ではありません)。「重症化したのは初めから抗生剤を使わなかったからだ」と言われるのを予防(防衛)するためです。

 日本では年間1000人もの子どもが細菌性髄膜炎にかかり、そのうち数十名が命を落とし、生き残ったお子さんも後遺症を残す例は決して少なくはありませんでした。

 子どもの細菌性髄膜炎を起炎菌の多くはヒブと肺炎球菌で、これらはワクチンで対応できます。ヒブワクチンと、小児肺炎球菌ワクチンです。

 日本では様々な理由でワクチンの導入が遅れました。ヒブワクチンは20年、小児肺炎球菌は10年ほどのワクチン・ラグ(遅れ)がありました。

 ヒブで考えると、20年のラグで失われた子供たちの命は600名ほどになったという資料もあります。細菌性髄膜炎に対抗できるワクチンが日本にない状態では、(有効性に関わらず)抗生剤を使いたくなったのは当然かもしれません。

 しかし、日本でもヒブワクチンが導入され定期接種化したことにより、ヒブに依る細菌性髄膜炎は皆無となりました。肺炎球菌が原因の細菌性髄膜炎も激減しました(肺炎球菌にはワクチンではカバーしきれない血清型があり、残念ながらゼロにすることは出来ません)。

 鹿児島県の小児細菌性髄膜炎サーベイランス(鹿児島スタディ)のデータを示します。詳しくはリンクを辿って下さい。

鹿児島県の小児細菌性髄膜炎サーベイランス

 逆に考えると、ここまで細菌性髄膜炎が減ったのだから細菌性髄膜炎のワクチン導入前後で、抗生剤の使用頻度や処方内容は大きく変わるべきです。