6月14日の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会

6月14日に行われHPVワクチンの「一時的接種推奨控」を決めたのは、予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会です。

平成25年度第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、平成25年度第2回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 配付資料

 その時に委員として参加した薗部友良先生のコメントです。VPDの会の内部の文章ですが、二次配布の許可が出ましたので、アップします。

HPVワクチン接種の変更に関して
6月14日の厚労省の緊急通達にありますように、HPVワクチン接種に関して、従来のA類(以前の一類)の定期接種としての位置づけは変わりませんが、接種する努力義務が削除され、積極的に勧奨されていないワクチンと、一時的になりました。そして接種のメリットとデメリットをより分かりやすく説明するようにとなりました。

以下は小生の私見ですが、背景になることを記します。小生もこのことを検討した厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の委員として出席し、会の代表としてではなく、個人として色々意見を述べました。

今回のことを理解するための基本は、日本の厚労省の副作用報告書に記載された例は、世界では有害事象例と呼ばれるもので、ワクチンとの因果関係のある真の副作用例と紛れ込み事故(ニセの副作用)例の両者が含まれております。因果関係の最終判定は専門家が行いますが、世界の常識として、有害事象報告例のほとんどは、重篤な症状を呈する例も含めて紛れ込み事故です。稀な副作用を見つけるために行われる調査ですが、このHPVワクチンは日本を除く国で、約1億5千万回使用されたもので膨大なデータが集積されております。その結果は、ほかのワクチンと同様に、ゼロリスクではあり得ませんが、この調査で安全性の高さが証明されております。多くのマスコミでは上記のことが報道されませんので、保護者の方が危険に思うのも無理からぬことです。報道は下記のことも含めて保護者が判断するのに必要な情報を総て記載すべきですが、残念ながらそうではないことが多いのです。

まず、原因は何であれ、接種後に起こった子どものCRPS(複合性局所疼痛症候群)などの病気にお悩みのご本人及びご家族に深くご同情申し上げます。突然症状が出れば、どなたでもびっくりして、受診します。また、ご両親がHPVワクチンのために起こったと思うことも大変自然なことです。しかし、小生も慢性疼痛のことはある程度は知っておりましたが、特に子どものCRPSに関しては、この問題が起こるまで全く知りませんでした。患者さんが受診された医療施設でも戸惑ったのではないかと思われます。

最終的に、大きな問題点はこの子どものCRPSが知られてないことと、専門医が少ないことになります。今後この点に関して小生は、先日の委員会に出席された成人の慢性疼痛の専門家に、是非子どものCRPSの専門家の先生を研究班などに加えて頂き、研究、治療体制の拡充をお願いしております。これは当然厚労省にお願いしていることにもなります。また、VPDの会としましても何かお手伝いできることはないかと模索しております。

さて、HPVワクチン接種後の血管迷走神経反射による失神と子どものCRPSに関して、ご両親に説明するための客観的な情報を記します。

失神も、子どものCRPSも、これはHPVワクチンだけで起こるものではなく、他のワクチンでも、献血や採血でも、その他の学校や家庭の生活上のことでも起こるものです。失神に関しては、HPVワクチンが痛いという噂が大変広まっており、そのために緊張します。時には、接種前に失神した例も報告されております。しかし、多くは接種が終わってほっとして緊張がとれた時に起こります。失神は女性に多く見られ、接種年齢が好発年齢と重なることも関係すると思います。ですので、これは基本的にワクチンの内容成分のためではなく、針を刺すという接種行為によって起こるものです。

奥山先生のスライドにもありましたように、同じことが子どものCRPSについても言えます。すなわち、これもHPVワクチンだけで起こるものでは無く、他のワクチンでも、献血や採血でも、その他の学校や日常の生活上のことでも起こるものです。日本の献血での健康被害報告にもCRPSの記載はあります。これらの点がマスコミ報道ではでていないことが多いので、是非保護者の方に伝えていただきたいことです。

 次に、接種中止にするかどうかなどの判断のことです。
幸いなことに、接種中止にはなりませんでした。国際的な中止する条件とは、世界で知られていない未知の重篤な副作用や有害事象が多発した場合です。接種後のCRPSに関しては世界中で報告されており、英国では接種後に6例でているとのことです。しかし、自然発生のCRPSと比べて、発生頻度に差がないとのことので、接種中止にはなっていません.米国では、多分同じ症状の人を、CRPSでは無く、RSD(reflex sympathetic dystrophy)と分類しており、7例報告が有り、その他の国でも起こっております。

ですので、今回も接種を中止したり、制限する条件には当たらないと小生は主張しました。しかし最終採決は3:2で、結果は上記の通りになりました。

制限した理由の一つに、未回復の方がおられることが問題とされました。基本的に慢性疼痛の一種ですので、お気の毒ですが、回復に時間のかかることが多いと思います。ですが、奥山先生のスライドにありましたように、時間はかかりますが最終的な予後は悪いものでは無いことが有り難い点です。ただしこれは、あくまでも専門家がしっかりと治療した場合ですので、その体制作りが大切になります。

いずれにしましてもこの積極的勧奨接種の中止がワクチン全体の信頼性に影響を及ぼして、他のワクチンの接種率が下がることが懸念されます。

HPVワクチンの安全性について
 米国では、接種後の被害救済制度であるVICP(Vaccine Injury Compensation Program)の、補償基準の一覧表には、HPVワクチンでは対象になる副作用はないと記載されております。しかし、実際には接種行為により失神などが起こった際も拡大適応されているようです。

日本での副作用問題の続きとしまして、アデムとギラン・バレー症候群が重大な副作用として、時期はずれましたが、両ワクチンの添付文書に記載された件です。米国の中立的医学団体であるIOM(Institute Of Medicine of American Academy) が副作用問題に関して幅広く詳細に調査をしております。厚い報告書の本もありますが、インターネットで要約だけを見ることも簡単にできます。
ここでは、ワクチンとこの両疾患に関して、確実に関係するとは記載されておりません。また、今年の医事新報の3月30日号のワクチン特集号の中に、岡田賢司先生がワクチンの安全性に関して記していますが、「この両疾患とワクチンとの関係に関しては、必ずしも明らかでない」と記載されております。

すなわちアデムで言えば、どのワクチン接種後に見られております。しかしワクチンの内容は総て違い、共通成分は水分だけです。また接種後の発生頻度は、小生の知る限り、自然発生頻度とほぼ同じで、少なくとも有意に超えるものではありません。2005年の日本脳炎ワクチン接種後のアデムに関して、WHOの専門家委員会から、「日本政府の言う旧型日本脳炎ワクチン接種とアデムの発生の関係に関して、エビデンスは無い。」との声明文が出されましたが、政府は方針を長い間変えなかった事実があります。ギラン・バレー症候群も多くの種類のワクチン接種後に見られ ます。ただし、、これも知る限りは、自然発生頻度を超えるものでは無いので、「関係は必ずしも明らかでない」になるのです。すなわち、紛れ込み事故の可能性が極めて高いものです。

これらの点をご理解いただき、日本の子どもを予防可能の子宮頸がんから守るためにご尽力いただければ有り難いです。また希望者への接種時には、子宮頸がん検診の大切さも合わせてご指導下さい。また、失神による障害の防止にもご注意下さい。

なお、接種を開始した方が、今回のことで次の接種の時期が遅れる場合の対処法です。菅谷明則先生がこのMLに回答しております。遅れた場合はなるべく早く追加接種を行いますが、回数はすでに接種した分を含めて合計3回です。2回目と3回目の間隔はブースター効果で抗体価を高めるために、原則として各ワクチンの規定間隔通りにします。(文責:薗部友良)

 もう一つのブログを紹介します。お子さんが細菌性髄膜炎になり、現在+Action for Children代表の高畑 紀一さんが、検討部会を傍聴した時のものです。一部を切り抜きます。

HPVワクチンの積極的勧奨の中止に関して

最後に、昨日の会議の傍聴は一種、異様な雰囲気でした。
今までには例が無い指定席制度、傍聴者の立入禁止エリアの設定等、前回の会議の最後に起きた出来事への対応策がなされていました。
耳に入ってくる会話も、「推進派」とか「反対派」とか、委員個人への誹謗とか、従来の傍聴経験ではあまり聞いたことが無い会話が多く聞かれました。
こういったことは、すごく頭にきますし、やめていただきたい。
私は予防接種部会時代から傍聴し続けてきました。細菌性髄膜炎から子どもたちを守るワクチンの早期定期接種化をはじめ、予防接種制度の改善を強く求めていたからですが、議論の過程でも決定された事柄でも、大きな失望を抱いたり憤りを感じたりすることは決して少なくありませんでした。
思わず声を上げたくなる気持ちはわかります。
特に、自らがラグ被害や副作用・副反応被害に遭われた方やそのご家族であれば、尚更ですし、そのような方々が思わず感情を発露してしまっても、私はそのことをとがめる気持ちは無いです。
しかし、前回、そして今回と、そうした当事者やご家族では無い人が、場の雰囲気に好ましくない影響を及ぼしたようです。
子どもたちのために、ラグ被害も副作用・副反応被害も可能な限りゼロに近づけて行きたい、どうしても避けられなかったリスクについては速やかな対応による救済を実現していきたい、ということを考えるなら、敵対関係を煽り、当事者を中傷し、委員や事務方を恫喝まがいの行為で委縮させる行為は絶対に避けなければいけない行為です。
真剣に取り組む気持ちと覚悟があるなら、二度とこのような行為は繰り返して欲しくないです。

 今後の検討部会がどういったものに成るのか、気がかりです。

a:11136 t:1 y:2