ゾフルーザの当院処方について

TV番組などで、ゾフルーザの名前が連呼されているようです(私は観てないのですが)。昔タミフルで「ちやほやの法則(上げたあと、落とす)」を知っている身分としては、あーまたか、という思いです。

 ゾフルーザ(商品名バロキサビルマルボキシル Baloxavir marboxil)は比較的新しく発売された抗インフルエンザ薬です。日本では去年の3月に発売されたので、実際に使用するのは今シーズンからになります。

 今までの抗インフルエンザ薬(タミフル・リレンザ等)とは違った機序で働く抗インフルエンザ薬で、特性上一回内服するだけでいいというのが特徴です。

 手軽さや製薬会社のプロモーションもあり、希望者が非常に多いと聞きます。抗インフルエンザ薬のブロックバスターになり得ると評する人もいました。

医薬品産業において使用される用語で、従来の治療体系を覆す薬効を持ち、他を圧倒するシェアや全く新しい市場の開拓、莫大な売り上げにより開発費を回収する以上の利益を生み出す新薬
ウィキペディアより。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC_(%E5%8C%BB%E8%96%AC%E5%93%81)

 しかし当院では当面の間、ゾフルーザをメインの抗インフルエンザ薬としては処方しません。

 ゾフルーザは比較的新しくできた薬です。発売された当初、PubMed(医学論文のアーカイブ)にはゾフルーザのことは殆ど載っていませんでした。いまでは少し増えて、18本ほどです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=baloxavir

 発売当初製薬会社が出した資料も殆どは「社内資料」でした。社内資料が全て悪いとは言いませんが、査読を受けていないものであり、そのまま受け入れるわけには行きません。

 また、小児でインフルエンザウイルスの耐性化が既に報告されており、小児科医にとっては非常に問題と思っています。

 一回で効くというのは、体の中に薬が長くとどまっているからです(半減期が長い)。社内資料によると、半減期は 95.8±18.2(hr)ということで、一度飲んだら半減化するのに4日前後はかかります。(同じく一回投与のイナビルやラピアクタにも言えますが)何かしらの副作用が起きたときに、すぐに薬を中止するわけにも行かないのです。タミフルやリレンザでは不具合が起こった場合、次回から使用中止すれば済む話なのです。

 いろいろとご意見はあるとは思いますが、当院ではしばらくゾフルーザの使用は見合わせます。どうしてもゾフルーザがいいという方がいましたら、お問い合わせ下さい。

参考資料

亀田総合病院感染症科:ゾフルーザ採用見送り

EARLの医学ノート:【レビュー】インフルエンザにゾフルーザ®は使うべきか?

クリニックのブログ
タミフルを出さない医者

補足

 一応説明すると、私はゾフルーザを今後一切処方しない、と言っているのではありません。今後適応を限って処方するかもしれません。特に今後来るであろう、新型インフルエンザでは威力を発揮するかもしれません。ただ、現状では、十分なデータが無いと思うのです。