【妊婦加算凍結】ポピュリズムのツケは誰が払う?
今年の四月から保険診療改定で、いくつかの加算がつくようになりました。その中の一つが「妊婦加算」です。
最近になり、「妊婦税はけしからん」という声が大きくなり、あっという間に来年の1月から当面の間凍結することになりました。
この政治的な判断については、すでに色々な処で議論されています。
妊婦加算が炎上した理由、凍結は正しい? 小泉進次郎さんと産婦人科医・宋美玄さんが対談
朝令暮改に陥った「妊婦加算」-問われる診療報酬改定の論拠と妥当性
少し付け足しをすれば、今回問題にならなかった、「産科・産婦人科(夜間救急を除く)における夜間、休日、深夜の加算」も何故か一緒に凍結されています。「妊婦税けしからん」という皮相的なロジックからすると、役人が「忖度」して一緒くたに凍結したのでしょうか?
多くの医師は妊婦加算が欲しいから異議を唱えているのではありません。「市民からの声」という名のポピュリズムで、医療政策が歪められたことに異議を唱えているのです。
妊婦税というのであれば、「新生児特定集中治療室管理料」は「未熟児税」ですし、小児については種々の加算が少しはつくので「小児税」です。麻酔する場合も肥満(BMIが35以上)の人にも加算がつくので「肥満税」です。誰かがけしからんとネット上で発言し、それがバズって政治家の目に留まれば、これらの加算は凍結するかもしれません(これらはあくまでポピュリズムに基づいた言説なので、念の為)。
ポピュリズムといえば、数年前小児科界隈で、予防接種事業委託料というものが問題なりました。
『某小児科医が主導する公金を貪る「巨悪」』などと勇ましいことを書いていますが、裁判の結果は書かれていません。すでに最高裁で決着がついていると聞いています。
この件を問題視したコミュニティ紙がありました。すでに記事はネット上からは無くなっているのですが、私が質問したことがあります。
はじめまして。東京都の世田谷区で小児科医をしております宮原と申します。
http://www.community2525.com/news/2012/08/13170350.php
この記事を読んで、気になったことがあります。
1.
「この積算方法は1ワクチン単独接種を前提にしたもので、増加しつつある2種以上のワクチン同時接種を想定したものではない。」
これについて明記された文章がありましたら、教えてください。
2.
「予防接種の問診内容や接種可能体温はほぼ共通していて、ワクチンの注射筒への充填や子どもをあやし接種する手間など、単体ワクチンと同時複数ワクチン接種とでそれほど大差なく、同時接種の場合、初診料や初診加算、栄養指導料などは1回の算定でよいはずだ。」
「単体ワクチンと同時複数ワクチン接種とでそれほど大差なく」とは実際に確認した事実でしょうか?実際には、同時接種に関する説明、接種ミスの注意など、種類が増えれば手間が増えます。
3.
この記事を書くに当たり、厚生労働省や同時接種を行なっている医師などからの意見も聞いたのでしょうか?
今の日本では単独接種から同時接種への移行期ということもあり、同時接種に関わる様々な誤解はありますが「過剰に支払われている」というのは、私が知る限り国の機関が発表した事実はなく、誤解を招く表現です。それともあくまで個人的な見解でしょうか?
以上3つです。
記者からは二週間以上経って、「ご質問の件につきましては取材先のことなど微妙な点がございまして回答は差し控えさせてください。」というお返事をいただきました。現在コミュティーサイトでは、同時接種の記事を読むことができません。裁判の結果も伝えていません。
数年前、「小児科医が暴利を貪っているのはけしからんというのは、保護者にとって分かりやすいのではないか」という意味を某所で発言した方がいました。「確かに、日本の小児医療費は多くの地方自治体の補助で全額無償化であり見かけ上保護者の負担が無いので、それよりも分かりやすいですね」とお返事したと思います。
ポピュリズムだけで医療政策を決めたら、医療は疲弊してきます。
よろしかったら、こちらもご覧下さい。
2021/05/29
追記
「乳幼児医療費の無償化」考