SIDSと睡眠環境について~悲しい事故を防ぐために
2023年、私たちの住む世田谷区の認可外保育施設で、赤ちゃんが亡くなるという大変悲しい事件がありました。 原因はうつぶせ寝によるものとされており、関係者の処分や区長からのコメントも発表されています。
https://www.city.setagaya.lg.jp/01044/31294.html
亡くなられたお子さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。
地域のかかりつけ医として、また一人の小児科医として、SIDS(乳幼児突然死症候群)や窒息事故を防ぐために、ご家庭でどのような対策ができるのか、改めて整理してお伝えしたいと思います。
SIDSが起こる「トリプルリスクモデル」とは
SIDSは長らく原因不明とされてきましたが、近年は以下の3つの因子が重なったときに発症しやすいという「トリプルリスクモデル」が提唱されています。
- 発達臨界期:心肺機能を調整する自律神経の発達が不安定な時期(生後2~4カ月頃)。
- 脆弱性(ぜいじゃくせい)を有する児:低出生体重や、妊娠中の喫煙の影響などで、脳幹部の機能に弱さがあり、ストレスに対する防御反応が鈍くなっている赤ちゃん。
- 外的ストレス:うつ伏せ寝、柔らかい寝具による顔の圧迫、タバコの煙、温めすぎ(高体温)、感染症など。
このうち、私たちが介入して取り除くことができるのが「3. 外的ストレス」です。そのため、長年にわたり「うつぶせ寝を避ける(あおむけ寝)」ことが強く推奨されてきました。
「掛け布団」と「添い寝」をめぐる新しい指針と混乱
最近、少し話題になったのが「掛け布団」の問題です。 米国小児科学会(AAP)が2022年に発表した指針では、SIDSや窒息のリスクを減らすため、以下の点を推奨しています。
- 添い寝は避ける。
- ベッドには枕や掛け布団を含め、何も置かない。
これを受けて、日本のこども家庭庁の新しい啓発パンフレットでも「掛け布団は使わない」という記載が追加されました。 しかし、添い寝の文化が根強く、冬の寒さが厳しい日本の住宅事情において、いきなり「掛け布団禁止・添い寝禁止」と言われても、戸惑う保護者の方が多いのが現実です。
当院でのアドバイス
日本小児科学会も、一律の禁止ではなく、日本の育児環境に即した現実的な対応を求めています。それらを踏まえ、私個人としては、ご家庭で無理なく実践できる以下のポイントをお勧めしたいと思います。
添い寝をする場合の工夫
理想は「同室で、別の寝床(ベビーベッドなど)」です。 もし添い寝をする場合は、「親が一緒に寝落ちしない」ことを目標にしましょう。授乳や寝かしつけで添い寝をしたとしても、親が眠る前には、赤ちゃんを「固めのマット」を敷いた、枕やぬいぐるみ等のない「個別のベッド」に移してください。大人のベッドや布団は柔らかすぎて、赤ちゃんにとっては窒息のリスクになります。
温度調整と掛け布団
「温めすぎ」もSIDSのリスクです。 温度調整は「服装」で行うことを基本にしましょう。掛け布団の代わりに、着るタイプの毛布(スリーパー)を活用するのも有効です。もし掛け布団を使う場合は、赤ちゃんが払いのけることができませんので、薄くて軽いものを選び、絶対に顔にかからない位置(脇の下までなど)にかけるよう、細心の注意を払ってください。
家庭用モニターについて
最近は家庭用の呼吸モニターやセンサーが市販されています。 これらを使う場合は、「SIDSの予防効果は証明されていない」という点を理解しておく必要があります。SIDSは呼吸が止まる前に低酸素状態になることがあり、アラームが鳴った時には手遅れである可能性も指摘されています。 モニターはあくまで補助的な「安心材料」として使い、過信してうつぶせ寝をさせたりせず、基本的な安全対策(あおむけ寝・固い寝具・禁煙)を徹底することが何より大切です。
さいごに
「あれもダメ、これもダメ」と追い詰められすぎる必要はありません。 あおむけ寝、禁煙、そして赤ちゃんの顔の周りに物を置かないこと。 日本の文化や風土に合わせつつ、赤ちゃんの命を守るための「無理のない、確実な対策」を続けていきましょう。
また、仰向けばかりしていると、どうしても頭囲変形するお子さんが増えてしまいます。こちらも参考にしてください
ヘルメット療法についての考え方─SIDS対策とタミータイムの話
https://www.karugamo-cl.jp/index.php?QBlog-20251001-1
参考文献
• 【識者の眼】「乳児の掛け物とSIDSリスクについて考える」坂本昌彦 https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26045
• 乳児の安全な睡眠環境の確保について 2024年改訂「寝ている赤ちゃんのいのちを守るために」(こども家庭庁)に関する見解 https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=160
• 【識者の眼】「乳児用モニター・センサーについてどう助言するか」坂本昌彦 https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_26075