「男性は4価で事足りる」のか?製薬会社が話さないHPVワクチンの真実

【追加】

 結構反響ありました。
 ガーダシルが販売中止になるのに伴い、気になって書いたのですが、少し補足しておきます。

 シルガード9がベターですが、間に合わない人はガーダシルでお願いします。とくに世田谷区の補助が来年度なくなる現在高校一年生の人は、ガーダシル1回だけでもよいので、接種をお願いします。 

「男性は4価で事足りる」のか?

 2026年12月でガーダシル(HPV4)は販売中止となるということです。

https://medical-tribune.co.jp/rensai/articles/?blogid=11&entryid=570023

 世界的にも4価のHPV4(ガーダシル)から9価のHPV9(シルガード9)への流れは当然だと思えます。その一方、世田谷区では2026年1月現在、男性への公費接種はガーダシルのみが対象です。
https://www.city.setagaya.lg.jp/02015/15364.html
 ところで、あるところで「男性の予防すべき癌は4価(ガーダシル)で事足りる」という話を聞きました。これは果たして正しいでしょうか?

 ファクトチェックのレーティングとしては、'ミスリード(一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい)'のではないかと思います。

https://fij.info/introduction/rating

 少しずつ紐解いて見ようと思います。

4価では十分にカバー出来ない肛門・中咽頭癌

 4価(6/11/16/18)は確かに主要因のHPV16/18をカバーしますが、'HPV関連の肛門・中咽頭癌(Oropharyngeal cancer)の大半が9価でカバーされる型(16/18/31/33/45/52/58/6/11)に該当すると報告されており、4価だけで「十分」と断言はできません。'肛門・中咽頭癌の大半は4価(16/18)でカバーされますが、9価は追加で約1割前後を上積みすることができます(肛門 +8% / 中咽頭 +4〜5%)。4価で十分とは言えません。

Burden of Human Papillomavirus (HPV)-Related Cancers Attributable to HPVs 6/11/16/18/31/33/45/52 and 58
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31360870/

4価ではカバーできないタイプの「群れ免疫」

 男性に9価を接種する大きな目的は、「女性パートナーに子宮頸癌の原因となるウイルスを感染させない」ということです。あくまで私見ですが、多くの男性は自分の癌予防も大切だけど、大切なパートナーを癌にさせないことも大事だと考えています。

 そして、集団接種を行うことで、ワクチン型HPV関連疾患の排除水準まで持ち込むことが出来ます。事実男性にもHPV9を接種しているオーストラリア では、ワクチン型HPVの排除水準に達しそうです。

The impact of 10 years of human papillomavirus (HPV) vaccination in Australia: what additional disease burden will a nonavalent vaccine prevent?
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6194907/

ファクトチェック:「男性は4価で事足りる」はミスリード

 以上のことより、個人防衛にも集団防衛のためにも、男性でも9価の方が好ましいと言えます。残念ながら2026年現在、男性へのHPV9ワクチンは定期接種化されていません。

4価では実現できない「ワクチンの公平性」

 新型コロナワクチンでは、接種できない人・できる人/接種できない国・できる国という「分断」が生じてしまいました。それを受けて、WHOではワクチンの公平性(Vaccine Equity)を重視するようになりました。
https://www.who.int/campaigns/vaccine-equity

 日本などで風疹が排除されたというWHOのニュースにも最後にequityに言及されています。

https://www.who.int/westernpacific/news/item/26-09-2025-rubella-elimination-verified-in-japan--and-measles-and-rubella-elimination-verified-in-pacific-island-countries-and-areas

 しかし日本のHPVワクチン政策については、ワクチンの公平性はありません。定期接種になっているのは女性のみですし、男性への公費接種(任意接種)が認められている自治体でも、シルガード9が接種できなかったり、十分な公知がされていない場合もあります。私が診察していると感じつのですが、世田谷区でも多くの接種対象年齢の男性およびその家族が、HPVワクチンを公費接種できることを知りません。診察室で初めて知る人が殆どです。

 ジェンダー平等という視点でみるのであれば、男性にもシルガード9を定期接種にするべきです。

製薬会社が宣伝として伝えることが出来ない「事実」

 ちなみにこれらの「事実」は、製薬会社が伝えることが出来ません。HPVワクチン接種することで中咽頭癌が予防できることも、集団接種でHPV関連の癌が減ることも、男性へのHPV9接種が「ワクチンの公平性」につながることも、です。

 どうしてかというと、これらのことは日本では承認されておらず、これらを宣伝として使うことは薬機法違反に問われるからです。

 製薬会社は承認外の効能(例:日本で未承認の“中咽頭癌予防”)を広告として謳えないのですが、「事実」です。

 ちなみに、アメリカではHPV9ワクチンに「中咽頭癌や頭頸部癌など」にもラベル拡大して承認したことがあります。
https://www.fda.gov/media/150779/download

若い人たちの将来を大事にした「啓発」を

 しかし、若い人たちの将来を考えれば、防ぎ得る癌およびそれに付随する悲しい話を予防することは大事です。製薬会社の宣伝からは離れて、若い人たちの将来を大事にした「啓発」を行うことは必要です。

 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会でもこのような動画を作っています。

MSD医学教育事業助成セミナー・今改めて知ろうHPV関連がん(1)川北大介・名古屋市立大学准教授「HPV関連がん~国内外の動向」 https://youtu.be/3fPdQbdZDL4?si=7nhGrCFvMAPxjDi8

MSD医学教育事業助成セミナー・今改めて知ろうHPV関連がん(2)折舘伸彦・横浜市立大学教授「HPV関連中咽頭がん~その実態と問題点」 https://youtu.be/5ZkyFN6jM2c?si=lR0_e82yXZQfQJEL

MSD医学教育事業助成セミナー・今改めて知ろうHPV関連がん(3)関根正幸・琉球大学教授「HPVワクチン~ジェンダーレス接種の重要性」 https://youtu.be/jgh2n7uNWRU?si=34vP65fmCQfg3CG0

 これからも当院では若い人たちの将来にために啓発を続けていきます。