集団浅慮ーー求めるべきは多様性、変わるべきは組織風土

集団浅慮: 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?

 正月の読書ですが、私はこちらを一気に読みました。

集団浅慮: 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?
集団浅慮: 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?
https://amzn.asia/d/7zG5qxD

 「自分は差別もハラスメントもしていない」というすべての方へ、と帯に書いてありますが、私は日本の組織に属している人全てに読んでもらいたいです。

本書が扱うテーマ:集団浅慮(groupthink)

 本書は、2024年に問題となったフジテレビの一連の問題を題材にしています。ここで事件の真相を論じるつもりはありません(この本自体暴露本の類ではありません)。著者の古賀史健さん(『嫌われる勇気』の著者)が、「集団浅慮」という観点から、組織が誤った意思決定へ傾いていくプロセスを描いています。

 集団浅慮(groupthink)とは、集団の意思決定において、メンバーが一致団結や調和を優先しすぎるあまり、異論や反論が抑え込まれ、結果として不合理で欠陥のある判断が生まれる現象です。

 本書では、調査報告書等から読み取れる経営判断の流れを踏まえつつ、組織防衛や内輪の論理が強まることで、状況が悪化していく様子が述べられています。

 組織を守るため、「オレたち」を守るため、そのちっぽけなプライドを守るため、集団浅慮は加速していった。見て見ぬふりを決め込み、被害に遭った女性の人権をないがしろにし、ステークホルダーへの説明責任を果たそうとせず、結果として330社以上ものスポンサー離れを招いた。

古賀 史健. 集団浅慮: 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか? (pp.11-12). ダイヤモンド社. Kindle 版.

集団浅慮を起こしやすい条件:同質性の高さと多様性の欠如

 集団浅慮は世界中で起こり得ますが、特に起きやすいのが

  • 同質性の高さ
  • 多様性の欠如
  • 「空気を読む」ことの過剰な優先
  • 反対意見を言いにくい雰囲気
    といった条件がそろったときです。

 本書を読むと、この問題は「特定の誰かが悪い」だけでは説明しきれないことが見えてきます。極端に言えば、トップが女性であっても、同じような組織風土であれば似た対応が起きた可能性は十分あります。つまり、問うべきは個人だけではなく、組織の構造と風土です。

医療機関にも他人事ではない

 実は、集団浅慮については拙書でも触れました。最初は以前は groupthink を「集団思考」と訳していましたが、今は「集団浅慮」のほうが実態に合うと思い、こちらの表現に改めています。

やさしくわかる 小児の予防接種

やさしくわかる 小児の予防接種

 医療の現場でも、会議や方針決定、院内の空気によって「言いにくいことが言えない」状況は簡単に生まれます。小児科に限りませんが、患者さんの安全や職員の尊厳に直結するので、なおさら軽視できません。

集団浅慮を避けるために、現場でできること

 拙書では、集団浅慮に陥らない対策として以下を挙げました(いずれも“形だけ”にしないのが肝心です)。

  • 多様な意見の奨励:批判的な視点を歓迎し、オープンな議論を促進します。
  • 外部の意見の導入:第三者や専門家の意見を積極的に取り入れます。
  • リーダーシップの役割:リーダーが中立を保ち、自由に発言できる環境を作ります。
  • 匿名の意見収集:本音を引き出すために匿名性を活用します。

 ここでいう「多様性」は、単に属性の話に限りません。立場・経験・専門性・価値観の違いが、意思決定の質を上げるという意味です。

 また私は、神経発達症のお子さんへのワクチン接種を考える文脈でも、ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)という考え方に触れました。脳や神経の個人差を「欠陥」ではなく「多様性」と捉え、社会の側が尊重し調整していくという発想です。医療者側がこの視点を持てるかどうかは、説明の質にも、関係性にも影響します。

ハラスメント対策は「理念」だけで終わらせない

 参考までに、練馬区医師会は職場のハラスメントについて、明確な姿勢を掲げています。
https://www.nerima-med.or.jp/harassment_boshi/

■職場のパワハラ・セクハラ等は人格と尊厳を傷つける行為であり、許さないこと
■互いに尊重し合える安全で快適な職場づくりに取り組むこと

 こうした掲示は出発点として重要ですが、最終的に問われるのは運用です。通報や相談の導線、第三者性、再発防止、そして何より「言っても大丈夫」な空気づくりがセットでないと、組織は変わりません。

求めるべきは多様性、変わるべきは組織風土

 当院(かるがもクリニック・病児保育こがも)は、多様性を尊重し、古い組織風土は変えていきます。そして、それを一度作って終わりにせず、維持する努力を続けます。
 集団浅慮は「誰かの悪意」がない場合でも、「どこにでもある構造」から起きます。だからこそ、日々の小さな意思決定の積み重ねで、組織は良くも悪くも変わります。
 あなたには「尊重される権利」があります。