食物アレルギー検査の落とし穴

少し前ですが「子供の体調不良は食物アレルギーかもしれないから、調べられるものすべてを調べてほしい」と保護者から依頼がありました。食物アレルギーでそういった体調不良を調べられるものなのでしょうか?

 結論から言うと食物アレルギーでの体調不良などはエビデンスが乏しく、そのために現時点では、調べることは勧められていません。また、調べられるもの全ての食物アレルギーを調べるということも勧められていません。少し説明します

IgGアレルギー

 一般的な食物アレルギーはIgE抗体というものを調べています。その一方、医療機関によってはIgGのアレルギーを自費で調べるところがあるようです。遅発型フードアレルギー検査とも呼ばれ、様々な体調不良の原因であると言われていますが、エビデンスはありません。

 こちらのIgGアレルギー検査については、日本アレルギー学会が10年ほど前から注意喚起をしています。

血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起

米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。
その理由として、以下のように記載されています。
すなわち、①食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。②食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。③血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。④よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。

以上により、日本アレルギー学会は日本小児アレルギー学会の注意喚起を支持し、食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。
(強調引用者)

https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51

 一方で、食物アレルギーが疑われる場合には、きちんとした手順で検査を進める必要があります。ポイントは『何を疑って調べるのか』を明確にすることです。

一度に多くの項目を調べる「セット検査」

 一般的に食物アレルギーを調べる場合は、ていねいな問診・食物日誌・症状の関連性の評価などから疑わしいものを絞り込んでから検査を行います(最終的な診断確定には食物経口負荷試験が必要)。

 最近鼻炎の検査をする際に、花粉やダニだけではなく、食物アレルギーも一度に調べられるものがあります。これはセット検査であり、鼻炎系だけ調べるということはできないようです。

 しかし、食物アレルギーのガイドラインでは、このようなセット検査は勧められていません。

回避するべきアレルゲンを明らかにするために、症状の誘因となっていることが疑われる物質に対する IgE 抗体の測定を行います。血液での検査が最も一般的ですが、しばしば “偽陽性” や “偽陰性” が出るので注意が必要です。特に数十項目を同時にスクリーニングするタイプのセット検査では多くの偽陽性が出て、例えば食物アレルギーでは回避する必要のない食品まで回避をしている患者さんがおられることから注意が必要です。
(強調引用者)

アレルギーの手引き2025~患者さんに接する医療従事者のために~(日本アレルギー学会)

 https://allergyportal.jp/bookend/guideline/bg250411/

 ダニと甲殻類(カニ・エビなど)は構造が似たタンパク質(トロポミオシン)を含んでおり、ダニの数値が高い人は実際に症状が出て無くてもエビも陽性になってしまう可能性もあります。

 『つまり、鼻炎の症状に対して、原因の可能性が低い食物アレルゲンまで含んだセット検査を行うこと自体が、かえって混乱を招く場合があるのです。』1)

「不要な検査」の弊害

 IgGアレルギーの検査は自費で有料ですが、「セット検査」の殆どは保険診療で行われています。小児の医療費は全額公費負担のところがほとんどなので、経済的な問題を問題にする保護者は少ないかもしれません。しかし、いくつか注意すべき点があります(私の経験も含めて)。

  • 症状誘発との関連が低い食物まで陽性となる
  • 多品目の食物除去につながり、QOLを損ねたり、成長・発達に悪影響を与えたりする可能性がある

 ここで思い出すのは、アトピー性皮膚炎の治療でステロイド軟膏を使わず厳しい食事制限を行っていたクリニックの話です(昔々のはなしで、もうそのクリニックはありません)。そこのクリニックではIgE検査で陽性になったものをどんどんと制限していったため、摂食障害になった患者さんがいました。私が病棟で治療を担当したのですが、身体的に生命の危機まで陥ったことがあります。最終的にはステロイド軟膏を使い必要最小限の食事制限でアトピー性皮膚炎も良くなり、体重も増えて退院できました。

 当院では実績のあるPAE(小児アレルギーエデュケーター)とともに、お子さんにどのような検査をするのか最善か、よく考えてから検査するようにしています。PAEの立場から食物除去や学校生活での工夫など、日常生活の中でどのようにアレルギーと付き合うかを一緒に考えます。安心してご相談ください。

参考資料

1)堀向先生(ほむほむ先生)のポスト。参考にさせていただきました。