補完食:十倍粥でいいの?卵白はいつ食べる?

補完食について

 赤ちゃんが食べる食事のことを離乳食(Weaning food)とよんでいました。Weaningとは「乳離れ」のことです。しかし、離乳食が始まったら乳離れ(断乳)しなくては行けないのかというとそうではありません。離乳食とは乳から離れることではありません。

 最近は、母乳だけでは足りなくなる栄養を補うための食事ということで、補完食(complementary feeding)と呼んでいます。Complementaryとは、補う・補完するという意味です。

 現在の母子手帳には「つぶしがゆから始める。すりつぶした野菜等も試してみる。なれてきたら、潰した豆腐・白身魚・卵黄等を試してみる。」と書いてあります。

 しかし、これは正しいでしょうか?

世界の多様性のある補完食

 日本と同じような補完食の指導をしている他の国はないでしょう。というか、みんなそれぞれです。

 WHOのガイドラインでは、動物性食品、果物、野菜、ナッツ、豆類、種子類は、穀類と比較して全体的に栄養密度が高いため、エネルギー摂取の主要な構成要素とすべきであると述べられています。その一方、でんぷん質の主食(穀物・芋類)は抑えるべきだと指摘されています。

 WHOのガイドラインでは母子手帳と違い、卵白を始めるから始めるべき、白身魚らか始めるべき、つぶしがゆから始めるべきとも書いていません。
https://japan-who.or.jp/news-releases/2310-23/

食事はどうすればよいか(私見)

十倍粥から始める必要はない

 多くの皆さんは、補完食として十倍粥から始めると思います。しかしこれは栄養学的には正しくありません。カロリーを取る意味では、薄すぎなのです。ペースト状から始めても良いでしょう。

全卵から初めても良いかも(ただし固ゆでで)

 二重抗原曝露仮説とは、アレルギーの原因物質(抗原)への曝露経路によって、アレルギーが発症するか抑制されるかが決まるという仮説です。具体的には、荒れた皮膚からアレルゲンが侵入すると感作(アレルギー体質の獲得)が成立しアレルギーが発症するのに対し、適切な時期に口から食物アレルゲンを摂取すると免疫寛容が誘導されアレルギー反応が抑制される、というものです。

 日本では伝統的に卵白の開始が遅れている一方で、家の中に含まれるハウスダストの中には卵白が多いことがわかっています。つまり、卵白開始が遅れて皮膚が荒れた状態で卵白を含んだハウスダストに感作されていると、卵白アレルギーになる可能性があります。卵白アレルギーを避けるために卵白を遅らせると、かえって卵白アレルギーになってしまうという、皮肉な結果です。

 卵白はしっかり加熱したほうがアレルギーになりにくい事がわかっています。20分ほど茹でた、固ゆで卵にしましょう。皮膚が荒れていればスキンケアをしっかりしたうえで、全卵を少量から初めても良いかと思います。それに抵抗がある人は、卵黄の外側(卵白と接しているところ)から初めても良いでしょう。卵黄の外側には卵白が少量混じっています。

 最近卵黄でも食物たんぱく誘発胃腸症(消化管アレルギー)が報告されています。卵を食べ初めて嘔吐や下痢が続くなど気になる症状がある時はお気軽にご相談ください。

鉄を補うための赤身肉(ヘム鉄)

 生後6ヶ月から赤ちゃんは鉄がミルクだけでは補えなくなります。そのため、食事で鉄を補う必要があります。

 ところで十倍粥や白身魚で鉄分は補えますでしょうか?鉄を補うためには、赤身肉やレバーなど、体に吸収されやすいヘム鉄を多く含んだ食材が必要です。事情があれば、食事以外の方法で鉄分を補っても良いとは思います。

一番最初に口にする食べ物は?

 ところで一番最初に口にする食べ物は何が良いと思いますか?

 当院では、「横に輪切りにした皮付きりんご」や「生のスティック状にんじん」をおすすめしています(注意:食べるとは書いてない)。

 「何いってんだ?」と思った人は、当院の補完食教室に参加してみてください。手づかみ食べの練習や自発性(BLW; Baby-led weaning)を促す第一歩なのです。

姿勢は大事

 当院ではワクチンデビューした全ての赤ちゃんに「タミータイム」について説明しています。タミータイムによって鍛えられた体幹は安定した姿勢につながり、補完食を導入しやすくなります。その一方、バウンサーやバンボなど、背中が不安定になりそうなものは、食事のときは避けるようにお願いしています。それだけ姿勢は大事です。

 補完食を始めるのは日本では生後5・6ヶ月からとされていますが、WHOでは生後6ヶ月からです。生後5ヶ月と生後6ヶ月では、姿勢を含めた発達の具合はかなり違います。

摂食における責任分担(sDOR:The Division of Responsibility in Feeding)

 Ellyn Satterによると、sDOR(“division of responsibility in feeding”)とは、保護者が「何を」「いつ」「どこで」子どもに提供するかを責任を持ち、子ども自身が「どれだけ」「食べるか/食べないか」を責任を持つという枠組みで、乳児期から思春期まで、一貫して適用可能な考え方です。

https://www.ellynsatterinstitute.org/the-division-of-responsibility-in-feeding/

保護者(養育者)の役割: “Feed” の部分

 保護者の“やるべきこと”として、以下が挙げられています。

  • 食べるものを選び・準備する。
  • 規則的な「食事」「おやつ」の時間を設定する。
  • 食事時を快適に、楽しい雰囲気で。
  • 家族全体の食卓の場をご自身が模範を示しながら作る。
  • 子どもの料理経験が浅いことを配慮しつつ、嗜好(好き嫌い)に迎合しすぎない。
  • 食事と食事の間には、水以外の飲食を控える。
  • 子どもが「その子に合った体」を育つのを信頼し、制御しすぎない。

子どもの役割: “Eat” の部分

 子どもが責任をもつ部分として、以下が示されています。

  • 保護者が提示した食べ物を「どれだけ/食べるか」を決める。
  • 保護者が提示した食べ物を「食べるか/食べないか」を決める。
  • 自分に合った成長(量・頻度・種類)を通じて “食べること” を学ぶ。
  • 食卓での振る舞いや食べ方を学ぶ。

 「今日何を食べるか」「どこで食べるか」「いつ食べるか」は保護者・家庭で決めますが、子どもの「量・有無」は信頼して任せるべきです。
 食事の席をできるだけ「決まった時間・決まった場所」で。間食・飲み物(※水以外)は食事とおやつの時間以外に控えたほうがよいでしょう。

 子どもが食べる時間を決めてしまうと、ずっと間食することになりえ、肥満などの問題を抱えることになるかもしれません。

どうして補完食教室を始めようと思ったのか

 それは9ヶ月になっても食事が進まないお子さんがいたからです。なかなか食事が始まらず、お母さんも悩んでいました。それでとある偏食外来に紹介したのですが、そこでわかったのは、嫌がる赤ちゃんに保護者が無理やりスプーンで口の中に食事を押し付けている姿です。このような状況では、赤ちゃんが食事を楽しむことはできませんし、保護者にとっても辛い状況でしょう。

 よく食事は味覚だけでなく、目で感じる色や形(視覚)、香りを嗅ぐ(嗅覚)、口に入れた時の食感(触覚)、食材を噛む音や調理の音(聴覚)の五感を使うことで美味しさを感じると言われていますが、その場の雰囲気でも味は変わってきます。また、その後の記憶で、その美味しさの意味付けが変わってくることでしょう。

 とある人は「玉音放送が終わった後、畑からもぎ取って食べたトマトの味を忘れない」と語ってました。戦争がようやく終わって空襲を心配しなくても良くなったという安心感とトマトの味が結びついたのです。

 食事は栄養・五感だけではなく、その時の雰囲気やその後の意味づけによって変わってくるものです。補完食は苦行ではなく、親子ともに楽しんで行うものです。

 これまでの小児科は病気モデルが中心でしたが、子育て支援モデルに移行していくことでしょう。今までの母子手帳では、「離乳食」の回数はチェックしても、どのようなものを食べているか、補うべきものは足りているか、食事をする側・される側ともに楽しんでいるか、などのチェックはしていませんでした。これからは子育てする立場に立った目線が必要かと思い、補完食教室を始めた次第です。

テイクホームメッセージ

「出汁を取る前に睡眠を取ろう!」

追加:離乳食・補完食の再考 ― 日本の現状を踏まえて

 10月の日本小児科学会で「日本における離乳食・補完食指導の現状」(早田茉莉ほか, 日小児誌 2025;129:1266–1275)という論文が出ました。

 全国1,939自治体へのアンケート結果をもとに、日本の離乳食指導がどのように行われているか、そして国際的なガイドラインと比べて何が異なるのかが分析されています。
 その結果、日本の離乳食開始は「遅く・薄く・早くやめる」傾向にあることが明らかになりました。言い換えれば、「栄養を減らす方向」に指導が偏っているのです。その一方で、日本では早期に授乳を辞める方向にあります。

何を変えるべきか?

  1. 10倍粥からの開始を見直す
     エネルギー密度と鉄含有量を考慮し、もう少し濃度を上げるべき。
  2. タンパク質源を早期から導入する
     お粥→野菜→タンパク質の順では遅い。
  3. フォローアップミルクの乱用を避ける
     鉄不足はミルクではなく、肉・魚・卵で補う。
  4. 母乳は2歳以降まで続けて良いことを明示
     中止の指導より、「続けてよい」のメッセージを。

謝辞

 補完食教室やこのブログは、藤沢市にある「かるがも藤沢クリニック小児科」の江田明日香先生からご教授いただきました。深謝申し上げます。
https://karugamo-fujisawa.com/