政治とワクチンの関係を考える

お断り:このブログは私が所属している団体とは必ずしも意見が一致しないかもしれません。
お断り2:私の認識では「ワクチンしていない≠反ワクチン」です。

選挙に参加した皆さん、お疲れさまでした。
今回の選挙結果は、今後の社会制度や公衆衛生政策に大きな影響を与える可能性があります。

その一例として、ワクチン政策が挙げられます。実際に、政治的ポピュリズムの台頭が、ワクチン接種率の低下や感染症の再流行と関連づけられるケースが、過去にいくつか観察されています。

イタリアの事例:義務接種撤廃の代償

2018年、イタリアでポピュリズム政党「五つ星運動」が政権を握り、ワクチン接種義務に対する規制を緩和しました。具体的には、学校入学に必要だったワクチン証明書の提出義務が撤廃されたのです。

その結果、麻疹(はしか)のワクチン接種率が低下し、麻疹の大規模な流行が発生。多くが未接種者であり、少なくとも4人が死亡しました。その後、深刻な公衆衛生上の影響を受け、イタリア政府は再びワクチン接種を義務化する方針に転換しました。

反ワクチン派の政党が政権をとったイタリアで今、起きていること (注:2018年の記事です)https://www.huffingtonpost.jp/2018/09/11/anti-vaxxers_a_23523492/

アメリカのRFK Jr.:ワクチンの代わりにタラ肝油?

アメリカでも同様に、政治とワクチンの関係が問題になっています。かつてトランプ政権の周辺で影響力を持ち、現在は米国厚生長官であるロバート・F・ケネディ Jr.(RFK Jr.)は、ワクチンへの否定的な発言を繰り返しています。

彼は麻疹対策として、ワクチンではなく「ビタミンAを多く含むタラの肝臓が効果的」と主張。これを信じた一部の人々がタラの肝油を過剰摂取し、ビタミンA中毒を起こす子どもたちが出てしまったという事例も報告されています。

CNN: 一部の麻疹患者にビタミンA中毒の兆候(2025年3月)
Some measles patients in West Texas show signs of vitamin A toxicity, doctors say, raising concerns about misinformation
https://edition.cnn.com/2025/03/26/health/texas-measles-vitamin-a-toxicity

👉 RFK Jr.の影響についての詳しい分析はこちら:
アメリカのワクチン政策はどこへ向かうのか ─ RFK Jr.就任とACIPの信頼失墜
https://note.com/chugaiigaku/n/n1d8fec10beef

「政治×反ワクチン」は本当に子どもを守るのか?

ふらいと先生のニュースレターでは、「政治が反ワクチンと結びついたとき、何が起こるのか?」を非常に丁寧に分析しています。

特に以下の視点が重要です:

  • ワクチンへのためらい(Vaccine Hesitancy)は、科学的根拠ではなく「エリートへの不信感」から生まれることが多い
  • 「清廉な一般大衆 vs 腐敗したエリート層」という構図を利用し、科学的知見や公衆衛生の専門家の発信を攻撃する構造が明確に説明されています。
  • その結果、根拠なきワクチン不信が社会に浸透し、子どもの命がリスクに晒される

よろしければ、ご登録をお願いします。
「政治×反ワクチン」は子どもの健康に影響を与えるか
https://flight.theletter.jp/posts/aaf29330-5c29-11f0-8464-8f552e9fa60c

医師としての立場から

自分も一人の小児科医として、すべてのワクチン政策に無批判で従うわけではありません。しかし、科学的根拠を無視して政治的にワクチンを利用することには強く反対します。

タラの肝油で麻疹の後遺症を防げる可能性は低く、政治的信条がどうであれ、ワクチンは命を守る公衆衛生の基本です。子どもたちの未来のためにも、今こそ冷静で正確な判断が求められます。