BCG溶液のヒ素

2018年11月21日、日本ビーシージー製造株式会社は、安全性問題はないものの今までの製品を自主回収する、と発表しました。新しいBCGはKH279以降になります。当院のBCGはすでに対応済みです。

乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用)自主回収に関するお詫びとご協力のお願い (PDF)

2018年11月3日にBCGワクチン溶液からヒ素が検出された、という報道が出てきました。

 意図的な混入ではなく、また量も微量であり、国としても企業としても回収はしないということです。また、企業から報告を受けた後、国が発表するまで3ヶ月ほど経っています。この国や企業の姿勢に憤りを覚える人もいるかも知れません。

 とりあえず、量についての考え方と、今後の対策を考えてみようと思います。

とりあえずの情報

 11月5日に私がBCGの会社に問い合わせた内容です。

  1. 混入は無機ヒ素(一般的に有機ヒ素より影響が大きい)
  2. 該当ロットは、KH250-278
  3. 回収はしないが、返品は可能
  4. 国家検定品は溶解液・薬品セットで通っているため、溶解液だけ別の溶液を使う訳にはいかない

 会社のサイトを読むと、2008年から混入が会ったようです。

http://www.bcg.gr.jp/

 新しいBCGは、11月中旬から下旬以降(流通の具合によっては12月上旬)になりそうです。

ロットについての追加報告

 2018/11/07、改めて会社に確認したところ、KH250-278というのは現在有効期限にあるもの、ということでした。

 2008年からだと、おそらくはKH085からだろう、ということでした(会社でも未確認なようです)。ただし、安全性・有効性ともに問題ない、ということは強調していました。

 2018/11/12会社から訂正がありました。ロット番号は、KH099-278ということでした。

溶解液についての追加(2018/11/16)

 11月14日付で、厚労省から「乾燥 BCG ワクチン(経皮用・1人用)の取扱いについて(留意事項)」という事務連絡が来ました。

https://www.pmda.go.jp/files/000226734.pdf

 確実なのは、

  • 既存のBCG溶解液ではなく日本薬局方生理食塩液を使っても、定期接種として取り扱って差し支えない。
  • 上記の方法で接種した場合でも、予防接種健康被害救済制度の適用外にはならない。

 ということだそうです。

 イレギュラーな動作は医療ミスとなりうるので、当院では原則規定のBCG溶液で行う方針です。

BCG溶解液の0.26ppmは危ないのか?

 「厚生労働省のBCGワクチンのヒ素含有の基準値は0.1ppmのところ、今回のワクチンでは0.26ppm検出された」ということです。

 どこかの市場ではありませんが、「○○からヒ素が基準値の26倍!!」と報道されれば、怖いと思うのは当然です。しかし毒物の基準値というものはかなり安全係数をかけたものであり、基準値を超えたからすぐに危険、というわけではありません。

「ワクチン対象児(体重 5~10kg)にこのヒ素量が体内に入ったとしても、医薬品の不純物ガイドラインでのヒ素(注射)1 日許容量※2(1.5~3 ?)の約 1/38~1/77 であり安全性に問題のないレベル」とされて います
( 0.15mL で溶解したワクチン液から 1~2 滴※3 をスポイトで腕に垂らして、管針を押しあてる経皮接種ですので体内に入るヒ素量は更に少なくなると考えられます )

乾燥BCGワクチン(経皮用・1 人用)に関するお詫びとお知らせ
http://www.bcg.gr.jp/pdf/info_181105_hogoshamuke_setsumei.pdf

それでもヒ素はゼロにしないと納得しない、という方へ

 それでもヒ素は猛毒だから、体から入るヒ素はゼロにしたいという方もいるかも知れません。

 ただ、もしヒ素をゼロにしたいというのでれば、私達は海藻類(特にヒジキ)を含む海産物やコメすらも口にすることはできません。

 ヒ素は、地球上に広く存在する元素です。自然環境中にあるヒ素を完全に避けることは難しく、飲料水や農畜水産物に移行するため、様々な食品には微量のヒ素が含まれています。

農林水産省:食品中のヒ素に関するQ&A
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_as/qa.html

 海水に微量ながらヒ素が含まれている以上、食物連鎖による海産物からのヒ素摂取は避けられません。

 また、ヒ素は微量必須元素であり、欠乏すると不具合が起こりえます。

 ヒ素は大量に服用すれば猛毒であり、事件にも事故にもなることがありました。しかし、食事などからヒ素からの摂取を避けることは出来ません。量から換算すれば食事より少ないBCG溶解液からのヒ素で、親御さんが罪悪感を持つ必要はありません。

ひじきのヒ素

 ひじきはヒ素、特に無機ヒ素の濃度が高く、英国ではあえて食べないように勧告しているほどです。

 しかし、ひじきは日本の食文化に根付いたものであり、そう簡単に食事をやめられるものでありません。ひじきに含まれるヒ素は、水戻しや茹でこぼしで、だいぶ減らすことはできます。

東京都福祉保健局:ひじきに含まれるヒ素
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/anzen_info/hijiki.html

 BCG溶解液と同じく少量であれば、ひじきを食べても問題ありません。

コメのヒ素とカドミウム

 多くの日本人が毎日食べるコメにもヒ素が含まれています。日本人は一日の無機ヒ素量の6割ほどがコメと米成分であることが報告されています。水田に水を張るとヒ素が水田に溶けくるのです。水を張る期間を短くすればヒ素が少なくなりますが、そのかわりカドミウム(イタイイタイ病で有名ですね)がコメの中に増えてきます。ゼロリスクを追求しすぎれば、どこかで歪(ひずみ)が出てくるのです。

化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015:農産物に含まれるカドミウム・ヒ素とそのリスク管理措置
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/5/53_330/_pdf

ひじき・コメの無機ヒ素は許せるけど、BCGの無機ヒ素は許せないという方へ

 一般的に、恐怖心を感じ(ヒ素のせいで多くの人が亡くなる)、自然なものよりも人工なものに対してよりリスクを感じ、そして子どもに関するものによりリスクを感じるものです。ですので、本来入るべきでないヒ素を許容できない親御さんも決して少なくはないと思います。

当院ブログ:リスクとは?
http://www.karugamo-cl.jp/index.php?QBlog-20140401-1

 確認することは、安全性についてはまず問題ない、ということと、むやみにヒ素を減らす必要はないということです。

 震災後にもありましたが、リスクをより感じるものに対してより避けたがり、また体に入ったものをより排除したがる傾向が人にはあります。リンクは避けますが不安を煽り毛髪ミネラル検査やデトックスを訴える小児科医が早くも出てきました。保護者を煽る不安商法が出てきたのは、残念なことです。

当院の方針

過去にBCGを受けた方
このままで構いません
これから受ける方
このままで構いません
やっぱり心配だよ
お住いの地域で結核のリスクが少なければ、新しいBCGワクチン出るまで待って構わないかもしれません(一度ご相談ください)

 一応お話しておくと、東京都内でも結核はゼロではありませんし、小児結核も時々報告されています。

 詳しくは、日本BCGのカスタマーセンターにまでお問い合わせください。

http://www.bcg.gr.jp/company.html

参考ブログ ・図書

五本木クリニック|院長ブログ:BCGワクチンからヒ素検出報道、ご心配されている子育て中のママやパパへ。
https://www.gohongi-beauty.jp/blog/26738/

「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える 畝山智香子
https://www.amazon.co.jp/dp/4535586047/