抗生剤の使い方(5) 第三世代セフェムと低血糖

クスリにはリスクが伴います。軽いものから重篤なものまで様々です。

 第三世代セフェムや経口カルバペネム抗生剤と呼ばれるものの多くは、腸での吸収を良くするためピボキシル基がついています。ピボキシル基のついた抗生剤が体に入ると、ピボキシル基からビバリン酸が分かれます(体の中で代謝されて活性化するクスリを「プロドラッグ」と呼びます)。ビバリン酸が体の中にあるカルニチンと結合し、最終的には尿に排出されます。その結果カルニチンが欠乏します(二次性低カルニチン欠乏症)。重篤な低カルニチン血症に伴って低血糖症、痙攣、脳症等を起こし、後遺症に至る症例も報告されています。

 カルニチンの大部分は食事などから供給する必要があります。赤身の肉類や乳製品にカルニチンが豊富です。逆にそういったものをあまり食べない乳幼児では元々の血中カルニチンが低いので、低カルニチン血症(カルニチン欠乏症)を起こしやすくなります。

 ピボキシル基を有する抗生剤をトータル56日間(!)使用し発症した例もあれば、抗生剤投与翌日で低血糖を起こした事例もあります。

 医薬品医療機器総合機構 PMDAから医薬品適正使用のお願いが出ているので、一部を引用します。こちらは2012年に出ているものです。

小児(特に乳幼児)への投与においては、血中カルニチンの低下に伴う低血糖症状(意識レベル低下、痙攣等)に注意してください(図:副作用発現時の年齢分布参照)。

長期投与に限らず、投与開始翌日に低カルニチン血症に伴う低血糖を起こした報告もあります。(症例3参照)

妊婦の服用により出生児に低カルニチン血症が認められた報告もあります。(症例4参照)

副作用発現時の年齢分布

ピボキシル基を有する抗菌薬投与による 小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について(PDF)

 改めてピボキシル基を有する抗生剤を挙げておきます。最初に一般名書いて、カッコに商品名を書いています。最近の後発品は一般名で書くことが多いです。

  • セフカペン ピボキシル塩酸塩水和物フロモックス
  • セフジトレン ピボキシルメイアクト
  • セフテラム ピボキシルトミロン、ソマトロン等)
  • テビペネム ピボキシルオラペネム

 ここではピボキシル基を採り上げましたが、先天的なもの、二次的なもの、他の薬(抗てんかん薬)などでもカルニチン欠乏症は起こりえます。

 念のため書いておきますが、私は全ての第三世代セフェムや経口カルバペネムが危険だと言っているのではありません。しかしながら、リスクとベネフィットをはかりながら処方するべきだし、(全ての抗生剤で言えることですが)特にこれらの抗生剤は漫然と使用すべきではありません。