HPVワクチンのお話3

今年の日本小児科学会で5月14日、「日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状と課題」という総合シンポジウムが開かれました。

 北海道で行われたこの学会、私は東京でお留守番でしたが、相当荒れたようです。

子宮頸がんワクチン論争 はっきり示された専門家の総意 小児科学会が投じた決着への一石

日本小児科学会:日本におけるヒトパピローマウイルスワクチンの現状と課題 #HPVワクチン

 後者は私がまとめたものです。一応書いておきますが、これは今後日本の医学史・ワクチン史に残るであろうこの問題を現時点で纏める必要があると思って書いたものです。誰かを貶める意図でまとめたものでは有りません。

 HPVワクチンについて、私の考え方は数年前とあまり変わりありません。

HPVワクチンのお話

HPVワクチンのお話2

6月14日の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会

 6年以上前のブログでは日本で「子宮頸がんワクチン」といえばサーバリックスだけで、とりあえず子宮頸がんワクチンだけしてればいいという風潮に疑問を呈していました。

サーバリックス?ガーダシル?

HPVを不条理に優先する不思議

 日本でHPVワクチン「積極的な勧奨一時中止」になってから、3年が過ぎようとしています。この3年間でHPVワクチンは全く変わっていませんが、ワクチンを取り巻く環境・社会情勢は大きく変わってしまいました。

 HPVワクチンの安全性について語れば、ネットなどで「御用」呼ばわりされていたものですが、最近になり少し変わったようです。「総括」と大上段に構えるつもりはありませんが、思ったことを書いてみます。

 ただこの話は日本や世界のワクチン史を知る必要があり、分かりにくいところがあるかもしれません。

HPVワクチンは日本では高度に政治的なワクチンになった

 HPVワクチン(特にサーバリックス)日本での認可・地域の公費助成・定期接種化までのプロセスが不透明なため、陰謀論者や一部の政治家により格好の餌食となった。

日本のHPVワクチン問題は、世界中の注目を浴びることになった

 WHOが懸念しているのは、日本のHPVワクチン問題が海外に飛び火してMMRワクチンにおける自閉症問題と同列になってしまうことであろう。(ワクチンをするリスクとしないリスク:自閉症という事例を通して)。そのため、最近はWHOも日本を名指しで非難するようになってきた。

安全であること・利益相反を明確化するために、高すぎるハードルが要求された

 HPVワクチンがこれまでのワクチンや薬よりも、「悪魔の証明」で絶対安全であることを強要された。2011年に「同時接種で死亡多発」としてヒブ・小児肺炎球菌ワクチンが中止となった。その時は既存の海外データや正直エビデンス的には低い国内速報値で、すぐに接種が付帯付きで再開した。

日本では10代に接種する筋注ワクチンが無かった

 日本ではティーンエージャーを含め小児では筋肉注射(筋注)はダブー視されてきた。そのため日本では小児での筋注のデータが存在しなかった(海外ではいっぱいあります)。

接種者に対する「呪い」

 「接種後数十年後に症状が現れる」というHANSやMMF(マクロファージ性筋膜炎)説が根拠なく流布した。MMFはWHOが数度にわたって否定しており、HANSに至っては査読の有る学会誌には掲載されていない。接種した人たちは今後数十年にわたって、根拠の無い呪いを掛けられたことになる。

怪しい治療法の跋扈

 現状のHPVワクチンエビデンスよりも遥かに怪しくて高額な「治療法」が跋扈した。血漿交換療法や脊髄電気刺激療法、それに高齢者が認知症に使う「メマリー」など。現在のところは保険適応外であり、高額な自費なのであろう。場合によっては代替医療の餌食となり、彼女たちは消費させられた。

シンポジウムでの患者情報流出

 2014年2月に日本臨床ウイルス学会が開いたとされるシンポジウム(子宮頸がんワクチンの重篤な副反応に警鐘を鳴らす医学者・研究者グループ)で患者情報が140人分流出(本来なら考えられない事態)。このシンポジウムや浜六郎氏が参加したことは学会関係者は寝耳に水であり、総務幹事(当時)の独断と思われる。

「心因性」「身体化障害」を否定するあまり、彼女たちの治療が遅れた可能性

 多くの人が指摘しているが、彼女たちにHPVワクチン接種後に起こった反応は小児科では時々見られる「心因性」「身体化障害」といわれているものに大差がない。まずはその可能性を探り治療するべきだったのに、HPVワクチンのせいにされてしまった。「むち打ち症候群」の如く、診断やそれにつながる言葉を告げられると症状に影響し痛みの遷延に影響することは度々有る。前述のエビデンスの低い治療に走ったあまり、回復が遅れたケースというものは少なからず有るだろう。

 ちなみに、「心因性」を気のせいと言ったのはHPVワクチンに携わる人達では私の知る限りいない。マスコミでは東京新聞・こちら特報部は『「心理的要因」、つまり「気のせい」』と言い切っている。

日本で先天性風疹症候群が増えたことと、同じことが…

 日本で先天性風疹症候群が増えたのはMMRワクチン禍があったから。企業・行政の姿勢が問われるべきだが、不安を煽った市民団体も問題。その団体の人物が今回のHPVワクチン問題に関わっている。今後日本だけHPVワクチンの普及が遅れて、将来子宮頸がんの悲劇(子ども・パートナーを遺して女性が亡くなる、あるいは女性が妊娠継続を諦めなくてはいけない状況に追い込まれる)が減らない状況がでてくるであろう。子宮頸がん検診をしっかりすればいいという声もあるが、それだけでは不十分であることはデータが証明している。

 悩ましいのは、先天性風疹症候群や子宮頸がんによる悲劇は、犠牲者のせいでないということだ。MMRワクチンでもHPVワクチンでも問題が起きたら責任を回避し先送りにしてきた(我々も含め)先代の課題なのである。

HPVワクチン裁判で誰の心が安らぐのか?

 2016年6月に「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」が訴訟を起こすということ。マスコミによると弁護団は150人ほど。横田先生のHANSは1万人いる説を真に受けての行動だろうか?

 訴訟について少しコメントしておくと、現在の裁判制度では訴えた側が因果関係を証明する必要がある。しかし、HPVワクチン被害の明確なエビデンスのない状況では勝ち目は薄いだろう。それよりも因果関係がなくても救済される「無過失補償制度」を充実させるように働きかけたほうが有意義である。

 「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」と「薬害イレッサ弁護団」のメンバーが重なるのも気がかりである。イレッサ訴訟では主治医を訴えれ原告が勝てた可能性があるが、弁護団は主治医ではなく国・製薬会社を訴えて敗訴した。
 「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」はメンツが重なる「薬害イレッサ弁護団」と同じ手法で訴える可能性は無いだろうか?

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