百日咳ワクチン(DPTワクチン)の歴史:その2

(前回からの続き)

百日咳ワクチン-アメリカの場合

 日本の一件から10年と少し立った後の1982年4月19日、現代アメリカでのアンチワクチン運動が産声を上げました。” DTP:ワクチンルーレット”という1時間ほどのドキュメンタリー番組が放映されたのです。

 詳しい内容はこちらのブログ(感染症診療の原則:The Culture of Fear (誰が煽っているのだろう))にあります。書籍(『アメリカは恐怖に踊る』)からの孫引きになってしまうので、直接の引用は避けます。リンク先をご覧ください。

 ちなみにこの番組の内容や裁判の行方、その後の顛末については、「代替医療の光と闇ー魔法を信じるかい?ー」で出てきた、「死に至る選択(Deadly Choices: How the Anti-Vaccine Movement Threatens Us All)

に詳しいです。この中で、Dravet syndrome(ドラベ症候群)という言葉が出てきます。ドラベ症候群は重症乳児ミオクロニーてんかんとほぼ同義であり、乳幼児期に発症する先天性の難治性てんかんです。1歳未満で初回発作(主に熱で誘発)がおこり、その後も発作を繰り返し、痙攣重積発作(10分以上続く)が起きることもあります。多くの場合治療不応性で知的発達にも問題が出てくることがあります。そう、” DTP:ワクチンルーレット”で「DTPワクチンの被害者」として出てきた人たちと症状が重なります。

 2015年になり日本で「熱性けいれん診療ガイドライン(PDF)」が出ました。その中では熱性けいれん後でも「当日の体調に留意すればすべての予防接種をすみやかに接種して良い」が推奨されています。解説でも

 特に乳幼児期に有熱時の遷延性発作を反復しやすい乳児重症ミオクロニーてんかん(Dravet syndrome)との鑑別も重要である。ちなみにDravet 症候群の約1/3は予防接種後の発熱を契機として発症し、2/3は遷延性発作に発展するとされ、従来ワクチン後脳症といわれていた患者のほとんどが本症候群であると考えられている。

と書いてあります(ここまで言い切ったのは正直驚きました)。

煽るマスコミ

 『アメリカは恐怖に踊る』から今後もDPTのみならず他のワクチンでも問題になるであろう指摘を引用しておきます。

二つの条件さえ満たせば、恐怖は賞味期間を過ぎた後も生き延びてしまうのだ。条件の第一は、そのときどきの社会不安を利用すること。第二は、メディアを知り尽くした応援団が存在すること。

 後者では、行政に何かしらの動き(班会議など)があると反対する団体が日程を合わせて集会を開き、一部のマスコミが殊更に大きく取り上げることがあります。

 これを聞いてと薗部 友良先生のある新聞記者の「我々には麻疹で何人亡くなるかということは関係ない、むしろそのワクチンで何人亡くなるかということの方が問題だ」を思い出すのは私だけでしょうか?

「もっと命の尊さを考えた報道をしてほしい」

 これだけだと血圧が上がるだけなので、前後の文章も長いですが引用しておきます(ワクチンの匠第3回、「守れる命を守れる社会に」:阪大微研HP)。ページの下にある「次のページヘ」を3回クリックしてください。その1で書いたDPTワクチン問題も書かれています。

また数年以上前のある学会で、「我々には麻疹で何人亡くなるかということは関係ない、むしろそのワクチンで何人亡くなるかということの方が問題だ」と発言した記者の方がいました。このとき私は悲しい思いで、「もっと命の尊さを考えた報道をしてほしい」と切実に感じました。しかし良く考えると、この発言も、記者の方々に正しい情報が届いていないためのもので、この方もある意味で被害者であると考えるようになりました。

 さて「我々には麻疹で何人亡くなるかということは関係ない、むしろそのワクチンで何人亡くなるかということの方が問題だ」ですが、この発言の麻疹やワクチンを他の単語に置き換えてみれば、残念ながら今のマスコミでもこの思想が生きてるとは思いませんか?「その1」で言及した『病気で子どもが死ぬのは自然なことだから仕方がないが、予防接種による被害は人為的なことなのだから許されないという「価値観」』に繫がるものです。

 もちろん『アメリカは恐怖に踊る』で他の章を読めば冷静にバランスよく報道しているマスコミも出ていますし、日本でもそういった取り組みをしているマスコミもあるでしょう。そして

事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべきだ。
毎日新聞:坂村健の目

 という意識で「もっと命の尊さを考えた報道」をしてくれるマスコミが増えてくれることを望みます。

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